ことば百科

日本語の修辞法ーレトリック
ことばを効果的に使って、美しく、また適切に表現する技術のひとつに修辞法(レトリック)があり ます。ここではその歴史をはじめ、日常よく使われるもの、また日本の古典にみられる特殊なものに ついて取り上げ説明します。

1, レトリックの定義

レトリック(英 rhetoric)とは、紀元前5世紀に古代ギリシアに始まり、以来二千数百年にわたって西洋に継承されてきた言語技術の体系である。その長い歴史の中 で、〈レトリック〉ということばは、実にさまざまな意味を付加されてきたため、今日のわれわれがこのことばを定義するのは容易ではない。『オックスフォード英語辞典』(OED)の第2版では、rhetoric に14の定義を与えているが、その中でとくに重要なものは以下の3つである。

  1. 他人を説得したり感化したりするためにことばを使いこなす技術。自らの思想を巧みに表現するために、話し手や書き手が従う一の規則。
  2. その技術についての研究。
  3. 説得を計算したことばづかいによって表現された話または文章。そこから(しばしば軽蔑(けい‐べつ)的な意味で)、わざとらしい、あるいはこれみよがしな表現を特徴とする文体。

rhetoric はこのように多義な語であるから、特定の日本語を訳語として当てることには無理がある。普通には、〔1〕の「技術」を意味する場合には「修辞法」、〔2〕 の「研究、あるいは学問的体系」をさす場合には「修辞学」、〔3〕の「個々の表現」については「修辞」と訳し分けられている。また、古代ギリシア・ローマ以来の演説組み立ての技法をさす場合には、「弁論術」「雄弁術」などの訳語が与えられることもある。最近の傾向としては、このような訳語選択の煩(わずら)わ しさを避けるために、また日本語の「修辞」ということばが、「ことばの飾り」や「美辞麗句」を連想させ、レトリック本来の意味と合わないという理由から、 とくに訳語をつけようとせず、(本稿でのそれのように)そのまま「レトリック」と音訳して使用するのが一般となってきている。

(『ことばの知識百科』三省堂刊より)
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