23, 日常の手紙の書き方
表書き等の形式
日常の手紙(私信)の構成
手紙も文章の一つである。
筆無精と自覚する人の多くは、手帳にメモするのもおっくうであるから、ましてや手紙を書くなどということははなはだ面倒である。面倒な理由の一つに手紙の形式というものがある。メモとちがって、日常における私信といえども、他人に読んでもらうことを目的にしている以上、そこには社会慣習上、相手に失礼にならない書き方というものがある。その形式を身につけることも、筆無精解消法の一つである。
表書き等の形式
封筒であれはがきであれ、まず一番先に受取人の目に入るのが表書きと裏書き、すなわち宛(あ)て名の部分と差出人の部分である。相手によい印象を与えるには、まず宛て名と差出人の書き方が大切なのはいうまでもない。本文の内容的な形式はともかく、私信でもビジネス上の手紙でも、表書きの形式に関してはほぼ共通すると考えてさしつかえない。
〔1〕宛て名の書き方
- 読みやすい字ではっきりと丁寧に書く。切手を貼(は)る位置を考え、重ならないように注意する。
- 相手の名はほぼ中央に、やや大きめの字で書く。
- 相手の名には個人なら「様」、会社など団体の場合は「御中」を添える。「○○先生 様」という宛て名をみかけるが、「先生」自体が敬称で二重敬語になるので「○○先生」か「○○様」のどちらかにする。
- 「殿」も氏名や官名に添えて敬意を表す語である。しかし、、現在では目下に対してやや事務的なものに用いることが多く、少なくとも目上に対しての私信に用いることはほとんどない。
また、「○○課長様」という二重敬語を避ける意味で「△△課長○○様」と書くのが一般的である。
なお、往復はがきの返信用の宛て名にはあらかじめ「行」が添えられてくる場合がふつうであるが、この「行」は棒引きしたうえ、「様」あるいは「御中」に訂正して返信する。このとき自分の名前に付いてくる「御・芳・お」などの敬称も棒引きで消すことを忘れてはならない。
- 受取人の住所は、できるだけ2行内におさめ、受取人の名よりやや小さめの字で書く。
- 住所が2行にまたがるときは、2行目の頭が1行目より上に出ないようにする。また、町名や番地の途中で行が変らないようにバランスを考えて書く。誤配の元にもなるので注意する。
- 受取人が同居者である場合には、住所の次に、○○様方などのように敬称を添えて記す。同居先が個人でなく寮や会社などの場合には、○○寮内あるいは○○会社気付などとする。受取人が旅行や短期出張のため、その立ち寄り先に送る場合にも、宛て先の下に気付の語を添える。
〔2〕差出人の書き方
- 差出人の名は、通常のはがきであるならば、宛て名と差出人がともに表書きにならぶことになる。このとき全体の中で宛て名が一番大きな字で書かれるようにバランスを考えることが重要である。また、住所も先方の住所の字より大きくなったり、行頭が上に出たりしないようにする。
ワープロで書く場合には、それぞれ字の大きさを変えるのは煩雑であり、その必要もないが、先方の名前(様・御中を含む)だけ、四倍角あるいは倍角文字にして、全体のバランスを保つ方法がある。差出人の住所・氏名は一段あるいは数文字下げて書くのがふつうである。
封筒の場合は、裏に書くことが多い。また、日付も入れるのがふつうである。なお、社用封筒は表の下に社名や住所が印刷してあり、差出人の氏名を記入する欄があるので、この場合には所定の箇所を利用すればよい。
- 差出人が同居人である場合には、同居先の姓名に「様」は添えない。
- 差出人の住所や、氏名までも省いた手紙をみかけるが、これは相手に対してもまた先方の家族に対しても失礼である。うっかり書き忘れたりしないように注意したい。
〔3〕脇付(わき‐づけ)
- 脇付とは、宛て名の左下に書き添えて敬意を表す語である。通常、「侍史」「机下」「貴下」などが用いられる。ちなみに「侍史」とは、「貴人の傍らに侍する書き役」という意味で、直接手渡すのははばかるから侍史を通じてこの書状を差し上げるという意味が込められている。
また、「机下」は相手の机の下に差し出す意で、相手を敬って添える語である。なお、両親には「膝下(しっ‐か)」、同等・目下の人には「足下」などが用いられる。
- 「御中」はもとは脇付の一つであるから、さらに脇付を添えたりはしない。
- 「親展」「親覧」などは、その内容が他見をはばかるときにあらかじめそれを知らせるための脇付である。「親しみを込めて……」などを表すものではないので、親しい間がらだからといって、むやみに添えることばではない。
また、面識の少ない人に出す書状に「親展」とすると、ダイレクト・メールと紛らわしいので注意を要する。
- そのほか事務的な脇付として「至急」「乞御返信」などがある。
- はがきは元来略式の書状であるから、脇付は添えない。
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日常の手紙(私信)の構成
私信といえども、本文の書き方にもある程度慣例上の形式や構成法がある。ごく親しい間がらの友人などには、形式にとらわれない自由な書き方が効果的であるだろう。しかし、社会人である以上、社交上の形式や約束ごとを身につけておくことも大切である。
手紙の基本的な構成は、前文、本文(主文)、末文、後付、添え書き(副文)からなる。この様式を踏まえたうえで、手紙の目的や相手に応じて適宜省略したり、変化させながら形式を整えていくとよい。
《1》前文
前文は、大きく「頭語」の部分と「あいさつ」の部分に分かれる。
-
頭語(起首・起筆)
書き出しを頭語あるいは起首・起筆などというが、やや改まった文章では、慣用的な語句を用いるのが一般的である。
「拝啓」「謹啓」「拝白」「恭啓」あるいは「謹んで申し上げます」「一筆申し上げます」など、定型的な丁寧な頭語がある。「前略」も頭語に用いられるが、これは、時候や安否のあいさつを省いて、直接本文に入るとき用いる。通常は「拝啓」を用いるのが無難なところである。
また親しい間柄では、頭語を省いて時候・安否などのあいさつから始めてもかまわない。書き手が女性の場合は、堅苦しくなるので、あえて「拝啓」などは使わずに「一筆ごめんください」などとすることもある。
返事の手紙の頭語には、「拝啓」のほかに「拝復」「芳書拝見」などがあり、女性の場合は「お便りありがとうございました」が一般的である。
なお、頭語のあとは1字分あけるか、改行して、「あいさつ」に入る。
-
あいさつ
あいさつには次のようなものがある。
[時候のあいさつ]
時候のあいさつは、手紙に季節感をもたせることができる。四季の変化がはっきりしているわが国ならではの慣習であるので、大切にしたい。
季節によって天候・自然・年中行事など書き方はさまざまで、慣用的に多用される句も少なくない。
例
「すっかり春めいてまいりました」(春)/「夏祭りの季節ともなりました」(夏)/「灯火親しむ候」(秋)/「朝夕の冷え込みもきびしく」(冬)などである。
しかし、時候のあいさつはこうした教科書的な文句はできるだけ使わずに、生活をにおわせるような自分のことばで書いたほうが、あらたまったなかにも気持ちがこもった手紙になるともいえる。
また、「暑中お見舞い申し上げます」などの紋切り型の時候のあいさつは、それ自体が頭語の性格を強く持っているために、あえて「拝啓」などの頭語のことばは不要である。
[安否のあいさつ]
時候のあいさつの代わりに、安否のあいさつを用いる場合もある。
この場合には必ず先に先方の安否を問い、次に自分や家族の安否・近況などを伝えるのが原則である。相手の安否を尋ねない場合は不要となる。
例1
「ご無沙汰しておりましたが、皆様お変わりございませんでしょうか。当方は末の娘も中学に進学し、一同元気に暮らしております」
「観測史上最大級の台風とか、みなさまごぶじでいらっしゃいますか。我が家では庭の柿の木の枝が折れたほか、これといった被害もなくほっとしております」
[お礼やおわびのあいさつ]
手紙の内容が何かのお礼やおわびに関するものである場合には、まずそれを伝えるのが礼儀である。したがって時候のあいさつの代わりに、お礼やおわびのあいさつを前文にもってくるのがよい。
例
(お礼のあいさつ)
「このたびは長男の進学祝いをわざわざお送りいただきまして、ありがとうございました」
例
(おわびのあいさつ)
「先日はせっかくのお招きに、あいにくの所用で大変失礼いたしました」
[そのほかのあいさつ]
返信の場合は、頭語に続けて「お便り拝見いたしました」「ご丁寧なお手紙ありがとうございました」などと礼のことばをまず述べる。また初めて手紙を出す相手には、時候や安否のあいさつなどは不自然なので、「突然のお便りをお許し下さい」などと続ける。
《2》本文(主文)
手紙の目的・用件を述べる部分である。目的や内容あるいは書き手の立場・相手との関係などによってさまざまであり改まった決まりはないが、留意すべき事がらがいくつかある。
[起辞から入る]
前文であいさつは済ませたものの、主文に移っていきなり用件を切り出すのも唐突な感が否めない。このためにワンクッションおくのが「起辞」である。よく使われることばは「さて」「ところで」「さっそくですが」「つきましては」などがある。
[用件は的確に]
ビジネスの手紙に限らず私信においても、手紙には必ず用件がある。それは連絡・報告・依頼・断り・安否・招待・祝い・慰めなどさまざまである。用件によって書き方も変わってくるが、共通していえることは的確な書き方をして確実に用件を果たすということである。
あらかじめ伝えたい内容を整理し、わかりやすく記述していくことが大切である。ふつうの文章の構成のときにも参考になる、起承転結の流れに留意することも必要である。
田舎の両親に季節ごとに出す手紙、恋人に出す手紙、ふと思いついて書く手紙などのようにとくに用件がなく、コミュニケーションを円滑にするための手紙もあるが、その場合にはそれが主題であり用件である。相手を思う気持ち、いたわる気持ち、元気であることを願う気持ちなどをストレートに伝えるためには、わざとらしい修飾語、華美な表現、婉曲(えん‐きょく)な言い回しなどは避けるべきであろう。
[敬語に注意する]
通常、手紙の場合は「です」「ます」体を用いた丁寧な文体で書くが、注意を要するのは敬語の使い方である。多重敬語のように過剰な敬意は、慇懃(いん‐ぎん)無礼な印象を与えて逆効果だし、用件を的確に伝えるという意味でもマイナスである。
とくに気をつけたいのは呼称である。先方側の事がらには尊敬語を用い、自分の側の呼称には謙譲語を用いて自他称の区別をするが、「お」などの丁寧語をつければいいということだけではなく、呼び名そのものがちがう場合も多いので注意を要する。「貴社」に対して「小社・弊社」、「ご令息」に対して「息子・愚息」の類である。
字配りにも気をつかい、相手の呼称が行末にきたり、自分側の呼称(私・小生・妻など)が行頭にきたりしないよう注意する。そのほか字配りの基本的法則としては、人名・地名・数字などが2行にまたがらないよう注意したい。とくに「ご結婚」などおめでたいことばが割れないように気を配ることも必要である。
また、便箋(びん‐せん)はできるだけ2枚以上にわたることが望ましい。2枚になった場合でも、後付けだけが2枚目にいくことがないよう、紙面の工夫を要する。
[祝いの手紙]
祝いの手紙で留意すべき点は、おめでたいことばが割れないように注意するほか、いわゆる忌み詞(ことば)を避けることに気をつける。結婚の祝い状で「出る」「破れる」「戻る」「離れる」などは禁句であり、新築祝いで火を連想させるような語も同様である。また、祝いのことばを繰り返し使ったり、ついでに他の用件を書き添えたりするのもタブーである。
また、進学や就職・栄転の手紙などで人生や仕事上の忠告などを書き添えることも避けるべきである。
[お悔やみ・お見舞いの手紙]
頭語・時候のあいさつは省いて、まず相手をいたわることばを述べるのが原則である。しかし、過度に同情したり、災害や病状の重大さを強調するような表現は避けるべきである。
[招待の手紙]
決まり文句のようになっているが、「万障お繰り合せの上」のような押しつけがましい表現は避ける。
[依頼・断り・催促などの手紙]
言いにくい内容であっても、遠回しな表現は避け、要点をかいつまんではっきりと述べるべきである。相手の気持ちや窮状を理解したうえで、こちらの事情も率直に記し、まちがっても相手に逆の可能性を示唆するような言い回しは使わないことが基本である。
[通知・連絡の手紙]
通知や連絡の手紙はビジネス文書的性格を備えている。修飾語や誇張した言い方は避け、必要事項が的確に伝わるように、改行・区切りなどを挿入して1か所にまとまるようにレイアウトする。
《3》末文
末文とは主文を締めくくって、その内容の要旨をまとめたり、結びのあいさつを述べる部分である。
[要旨のまとめ]
比較的長い手紙になった場合などは、本文の要点をまとめて末文に書き添えてから結びのあいさつを述べるほうが親切である。
[結びのあいさつ]
結びのあいさつは、本文の内容によってさまざまである。用件を締めくくるあいさつならば「まずはお願いまで」「取り急ぎお知らせいたします」などがある。
別れのあいさつならば「お体お大事に」「お会いできる日を楽しみに」「乱筆乱文お許し下さい」などもある。
そのほか、後日の約束、返信の請求、伝言のことばなどを適宜組み合わせてまとめることもある。
いずれも、本文と一体となって手紙を構成する重要なものなので、結びとしてふさわしいあいさつとなるよう、適切なことばを選択することが必要である。
[結語]
結語とは、末文の最後に述べる結びのことばで、慣習上、頭語と対応しているので気をつけたい。
「拝啓」に対しては「敬具」「敬白」、「前略」や「冠省」に対しては「草々」などが用いられる。起首と同様、書き手が女性の場合に「敬具」「敬白」などはあえて使う必要はなく、「かしこ」あるいは「ごきげんよう」などが用いられることが多い。
末文の最終行の下に書くか、行を改めたうえで行末に書くようにする。相手に対して失礼にあたるので、まちがっても、結語を行頭に書かないように注意したい。
《4》後付
はがきの場合にはスペースが無いのであえて必要としないが、手紙の場合には後付も大切である。通常、日付・署名・宛て名・敬称・脇付からなる。
[日付]
手紙を書いた日の年月日を、末文の行を改め、2・3字下げた位置にやや小さい字で記述する。慣用的な句としては、「平成○年元旦」「平成○年盛夏」「平成○年○月吉日」などがある。
[署名]
手紙を書いた本人の名前を、日付の下または次の行の下部に書き記す。
改まった手紙の場合は氏名の下に「拝」、親しい間がらなら姓のあとに「生」、代筆であれば「代」、妻が代筆した場合には「内」と書き添えることもある。
[宛て名]
改めて誰に当てた書状かをはっきりさせるために先方の姓名を書くもので、署名よりもやや大きめの字で、本文の行頭と日付の間くらいの位置から書きはじめる。相手が同等な関係の場合は、日付と宛て名の書き出しの位置が同じでもよい。
[敬称]
宛て名の下に添える語で、表書きの宛て名の敬称に準ずる。相手が複数の場合には「各位」なども用いられる。
[脇付]
これも表書きの脇付に準ずる。
ただし、「親展」「至急」などの脇付は、封書を開封する前に目にする方が効果的なので表書きにするが、「机下」「膝下」「座右」「みもとに」などの脇付は表書きでなく、手紙の受取人にさらに敬意を表して、この添え書きを記すのがふつうである。しかし、脇付は最近ではあまり使われなくなっているのが実情である。
《5》添え書き(副文)
添え書きまたは副文とは、本文で書き漏らしたこと、付記事項などを、「追伸」「二伸」「追而」「再白」などの形で最後に添える文章をいう。「追って書き」「なおなお書き」などともいい、横書きの文章であれば「P.S.」などとも書く。
あえて書く必要がなければ省略してかまわないが、親しい間がらでの手紙であれば、意外なワンポイント効果を生む可能性もある。
ただし、目上の人に宛てた手紙では避けるべきである。
そのほか、手紙の種類によっては、伝達事項などを本文のあとに「記」として、箇条書きにして掲げることもある。
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(『ことばの知識百科』三省堂刊より)