ことば百科

日本語の修辞法ーレトリック
ことばを効果的に使って、美しく、また適切に表現する技術のひとつに修辞法(レトリック)があり ます。ここではその歴史をはじめ、日常よく使われるもの、また日本の古典にみられる特殊なものに ついて取り上げ説明します。

4, 日本の修辞法

  1. 枕詞(まくら‐ことば)
  2. 序詞(じょ‐ことば)
  3. 掛詞(かけ‐ことば)
  4. 縁語
  5. 本歌取り(ほん‐か‐ど‐り)

枕詞(まくら‐ことば)

 あることばを導き出すためにその前に置かれる修飾句で、主として五音一句以下のものをいう。『万葉集』(8 世紀後半ごろ成立)に多く見られるが、『古今和歌集』(913 年ごろ成立)以降は次第に用いられなくなった。枕詞とそれがかかることばとの関係は、大きく分けて、(1)音声上のつながりによるものと、(2)意味上のつながりによるものとの2種類がある。たとえば、〈……生(あ)れましし 神のことごと つがの木の いや つぎつぎ に 天の下 知らしめししを……〉(柿本人麻呂『万葉集』)の、「つがの木の( つぎつぎ にかかる)」は(1)の例であり、〈家にあれば笥(け)に盛る飯を草枕 にしあれば椎(しい)の葉に盛る〉(有間皇子『万葉集』)の、「草枕( にかかる)」は(2)の例である。枕詞は、実質的な意味をもたないため、歌の解釈には直接関係しないが、歌の調子を整え、独自のイメージを喚起するなど重要な役割を果たす。

序詞(じょ‐ことば)

 ある(歌の主想につながる)ことばを導き出すためにその前に置かれる語句で、枕詞よりも長いものをいう。枕詞と同じく、上代において最も多く見られ、中古以降次第に用いられなくなった。その機能も枕詞と類似しているが、(1)枕詞が五音一句を基本としているのに対し、序詞はより長い形をとり、二句から四句にまでも跨(またが)るものがある、(2)枕詞にはある決まった形があり、それがかかることばも固定しているのに対し、序詞は1回限りの即興的なもので、任意のことばを導き出すために自由に作られる、などのちがいがある。

 序詞とそれが導き出すことばとの関係は、枕詞と同じで、(1)音声上のつながりによるものと、(2)意味上のつながりによるものとの2種類がある。

 たとえば、〈住の江の岸に寄る波 さへや夢の通ひ路人目よくらむ〉(藤原敏行『古今和歌集』)においては、「住の江の岸に寄る波」が同音の「夜」を導き出す序詞となっており、(1)の例である。これに対して、〈千鳥鳴く佐保の川瀬のさざれ波 やむ時もなし 我が恋ふらくは〉(大伴郎女(おおとものいらつめ)『万葉集』)の場合は、「千鳥鳴く佐保の川瀬のさざれ波」が、「いつもやまないでたっているように」という意味上の連想から「やむ時もなし」を導き出しているので、(2)の例である。序詞は、枕詞よりも具体的な意味を持つので、何らかの形で解釈に生かされることが多い。

掛詞(かけ‐ことば)

 発音の共通性(類似性)を利用して、一つのことばに二つの意味を兼ねさせたもの。『古今和歌集』で大いに用いられ、後には謡曲、浄瑠璃(じょう‐る‐り)などの散文でも使用されている。

 その用法は、(1)上からの文節と、下へ続く文節とを、一つのことばをそれぞれ二つの意味に用いて連結するものと、(2)一つのことばにそのまま2語の意味を兼ねさせるものとの2種類がある。

 たとえば、〈立ち別れいなばの山の峰に生ふるまつとし聞かばいま帰り来む〉(在原行平『古今和歌集』)の場合は、「いなば」と「まつ」がそれぞれ、「立ち別れ 往なば 」と「 因幡 の山の」、「峰に生ふる 」と「 待つ とし聞かば」のように、同音異義語として上下の文節を連結しているから、(1)の例である。これに対して、〈大江山いく野の道の遠ければまだふみも見ず天の橋立〉(小式部『金葉和歌集』)においては、「いく野」と「ふみ」がそれぞれ、「行く野(幾野)」と「生野」、「踏み」と「文」の2語の意味を兼ねたものであるから、(2)の例である。

縁語

 歌の中で意識的に配置された、歌中のあることばと意味内容上密接な関連にある語。あくまでも一つの技巧として、「意識的に」それらの語を用いたということが重要なのであって、歌の展開上必然的に関係のある語はいくら意味的関係が深くても縁語とは呼ばれない。縁語は、『万葉集』にはほとんど見られないが、『古今和歌集』、『新古今和歌集』(1205年撰進)などで盛んに用いられた。その例としては、〈も無き心を人に 染め しより 移ろは むとは思ほえなくに〉(紀貫之『古今和歌集』)という歌の場合、「色」に対して「染む」、「移ろふ」が縁語となっている。また、〈玉の 絶え なば 絶え ながらへ ば忍ぶることの 弱り もぞする〉(式子内親王『新古今和歌集』)においては、「命」を意味する「玉の緒」(魂をつなぎとめている緒)の「緒」の縁語として、「絶え」「ながらへ」「弱り」の語が用いられている。

本歌取り(ほん‐か‐ど‐り)

 有名な古歌の語句や素材を意識的に用いて新しい和歌を作る技法。そうすることによって、自作の歌にその古歌(本歌)の世界を取り込み、重層的・複合的な詩情を生み出すことができる。『新古今和歌集』の時代に盛んに行われた。よく知られた例としては、〈苦しくも降り来る雨か三輪の崎狭野(さ‐の)の渡りに家もあらなくに〉(長忌寸奥麻呂(ながの‐いみ‐き‐おき‐ま‐ろ)『万葉集』)を本歌として、〈駒(こま)とめて袖(そで)打ち払ふかげもなし佐野のわたりの雪の夕暮れ〉と詠んだ、藤原定家の歌(『新古今和歌集』)がある。

(『ことばの知識百科』三省堂刊より)
ページトップへ

日本語の修辞法ーレトリック
レトリックの定義
レトリックの歴史
修辞法
日本の修辞法

>