
第9回 インターネットと異文化間非言語コミュニケーション
東山 安子(とうやま やすこ)
大学教員・異文化間非言語コミュニケーション研究家
2008年3月13日
インターネットってどうやるの?プロバイダーって何?どこがいいの?などと10数年前には言っていたのに、あっという間にネットを使う毎日になってきました。私は数年前から、テレビと新聞をやめてラジオの生活に切り替えましたが、ネットはなかなかやめられず、情報に翻弄されないよう賢く使っているつもりです。
さて、このように手軽で便利ではありますが、インターネットなどのデジタルコミュニケーションは相手と実際に対面していないため、大切な部分が伝えられないことが多々あります。私は長年、ことばによらないコミュニケーションに関心を持ってきました。一般に「非言語コミュニケーション」「ノンバーバル・コミュニケーション」と呼ばれる分野です。具体的には、身ぶり・手ぶり・顔の表情・姿勢・視線・話をする時の声の表情・間の取り方・相手との距離・座席の取り方・時に対する考え方・衣服の選び方など、多種多様なものが含まれます。
ことばによらないコミュニケーションは、人と会って話をするときに、ことばと同様に、或いはそれ以上に大切な役割を果たします。人と人が出会って話をするときに伝え合うメッセージ量の7割近くを占めるという推定数字もあります。この数字だけみると、ことばが3割、そんなことはないと思われるかもしれませんが、人と待ち合わせて会ったときのことを思い起こしてみて下さい。声をかける前に相手の表情や顔色や服装や歩き方などから、いつもと同じように元気かどうかが一目でわかります。話を始めれば、風邪声であったり、声がいつもより沈んでいたりと、目の前にいるその人の今の状態がことばによらないコミュニケーションから伝わってきます。
ことばはこれらの非言語による無意識のメッセージを土台として、それを理解した上で解釈されます。ですから、電話では相手の顔が見えないため、沈黙が起きたときに相手の表情がわからずいろいろ悪い状況を考えて不安になりますし、メールもことばの土台である非言語によるメッセージが読めないために、解釈を間違えて誤解を生ずることが多くなるのです。もちろん絵文字や写真、動画も補助的に使われますが、実際に対面しているときに比べれば限界があると言わざるを得ません。
これが異文化間のコミュニケーションとなると、さらに複雑になります。目の前にいる相手の文化圏が違うために、無意識に伝わってくる非言語部分のコミュニケーションの読み取り方がかなり異なるからです。私の研究対象は異文化間の身ぶり・手ぶり・顔の表情・姿勢などが中心で、アメリカ人の共同研究者のローラ・フォードと共著で『日米ボディートーク 身ぶり・表情・しぐさの辞典』を出版しました。また、著名な動物行動学者であるデズモンド・モリスの著書『ボディートーク 世界の身ぶり辞典』も翻訳し紹介しています。これらの本は、ことばの辞書が多種多数ある中で、ジェスチャーやしぐさについての辞書と呼べるものが極めて少なく、しかも信頼性のおけるものがないという中で、少しでも価値のあるものをと三省堂から出版したものです。
これらの本から、ことばによらないコミュニケーションが異文化間で異なる例をあげてみましょう。コミュニケーションをとる時にはまず相手と挨拶を交わしますが、これもお辞儀や握手ばかりではなく、鼻をこすり合わせたり、身体の前で手を合わせたりと多様なやりかたが世界各地にあります。また、頭を縦に振ってYes, 頭を横に振ってNoというように、基本的な動作と思われる肯定否定でさえ、Yesで頭を横にゆらゆらさせる文化もあれば、頭を後ろに強く引いて“No”を表す文化もあるのです。ことばは出来なくても身ぶり手ぶりでという普遍性も確かにありながら、同じ意味で使うと信じ込んでいると思わぬ誤解が生じます。異文化間のコミュニケーションでは、自分の文化圏のコミュニケーションの仕方、習慣、価値観などを基準としためがねを取り外し、相手の文化圏のやり方を尊重し受け入れつつ、お互いに率直に対することが大切になるでしょう。
この度、連載の機会が別途与えられていますので、非言語コミュニケーションについて、そちらでもう少しご紹介することにします。
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