
4, ことば遊びのいろいろ(西洋)
- クロスワード(crossword)
- 同類の音の連続
- 早口ことば(tongue twister)
- しゃれ(pun)
- 異分析(metanalysis)
- アナグラム(anagram)
- 回文(palindrome)
- リポグラム(lipogram)
- ユニボカリック(univocalics)
- パングラム(pangram)
- ダブレット(doublet)
- クロノグラム(chronogram)
- アクロスティック(acrostic)
- 判じ物(rebuse)
西洋にもことばを使った遊びは数多く存在する。広く考えれば機密保持の上での暗号などもことば遊びに含まれるが、ここではことばの音やアルファベットによる表記で遊ぶ代表的な遊びについて見ていきたい。
クロスワード(crossword)
西洋起源のことば遊びで、現在最も普及しているのはクロスワードであろう。日本でもクロスワード専門の雑誌が根強い人気を誇っている。ヒントに基づいて、タテ・ヨコのマス目に文字を入れて、互いの文字が連絡するように考える遊びである。これが広く知れわたったのは1913年、アメリカで、新聞に登場してからだと言われている。本来は、アルファベットで埋めていくものだったが、かなや漢字でも応用できるため、知的ゲームとしてはおそらく世界的な人気を集めた遊びであろう。
同類の音の連続
意図的に同類の音を連続させて、聴覚的に深い印象を与える表現がある。日本で言うわらべ歌や〈唱えことば〉に相当すると考えてよい。中でも、マザーグースはその宝庫である。Peter Piper picked a peck of pickled pepper・ A peck of pickled pepper Peter Piper picked・といった意味よりも類音の連続を目的とする句や、Little Miss Muffet/Sat on a tuffet(タフェットの上に座っていたマフェットお嬢さんが)で始まる詩など、枚挙にいとまがない。後者のものは韻をふんでいるが、音の心地よさを追及したものとなっている。現にtuffetが何であるのか、イギリス人ですらはっきりと説明できる人は少なく・耳で聞いた音の心地よさゆえに今日まで語り伝えられている。
早口ことば(tongue twister)
同類の音を重ねたり、発音しにくい音の連続をわざととりまぜた表現を、いかに早口で誤りなく言えるかを競う遊びで、有名なものとしては、She sells seashells on the seashore.(彼女は海辺で貝殻を売っている)/Un chasseur sachant chasser doit savoir chasser sans son chien.(優秀な狩人ならば犬を使わずに狩りができなければならない)などがある。
しゃれ(pun)
日本語で言うしゃれ・地口にあたるが、ヨーロッパの修辞学では、同じ語を異なった意味で2度以上使用したり、同音異義語を2度以上用いることば遊びのことをいう。ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』には、beat time(拍子をとる)と言ったアリスに「時間を叩(たた)くなんて!」と非難する帽子屋の話、long tail(長い尻尾(しっ‐ぽ))をもつネズミがlong tale(長い話)をする話、学校のlesson(授業)が1日ごとにlessen(減る)という話がでてくる。
異分析(metanalysis)
本来は歴史言語学の用語であったが、ことば遊びの一つを指すようにもなった。これは、たとえばThe polar bear considers his habitat an ice [=a nice] place.(北極熊(ぐま)は自分の生息地をアイス〔ナイス〕プレイスと考えている。『ことば遊び12講』)のように、単語のアルファベットの切り方を変えることで異なる意味が生まれるという遊びである。また、アルファベットの歌は本来A was an Aplle-pie; B bit it; という具合に続くものであるが、異分析を用いると次のようになる。A for ism〔=aphorism金言〕、B for mutton〔=beef or muttonビーフかマトン〕、C for th' Highlanders〔=Seaforth Highlandersシーフォース高地連隊兵〕、D for ential〔=deferential恭しい〕、E for brick〔='eave a brickれんがを投げる〕……
アナグラム(anagram)
語句の綴(つづ)りを入れ替えて別の語句を作り出すことで、並べかえの方法によって1語から複数のアナグラムが誕生することもある。priest(司祭)→stripe(縞(しま)模様)、sprite(妖精(よう‐せい))、ripest(最も熟した)、esprit(機知)/Marie(人物名)→aimer(好きだ)など。イギリスの随筆家チャールズ・ラムのペンネーム、エリア(Elia)はa lie(うそ)の、19世紀の小説家サミュエル・バトラーの風刺小説『エレホン』(Erewhon)はnowhereのアルファベットを並べかえて作った題名である。一般にアナグラムの前と後の語は意味の上で関連のないのが普通であるが、中にはconversation(会話)→voices rant on(声がわめき続ける)/mother・in・law(継母)→woman Hitlar(女ヒトラー)など関連性のあるものもある。古くは、アナグラムによって人間や世界に関する情報が明らかにされると考えられ、魔術的な意味合いをもつこともあった。RomaにはAmor(ラテン語の「愛」)があるとして神の愛の宿る都と考えたりするのがその好例である。
回文(palindrome)
前から読んでも後ろから読んでも同音・同意になる語句や文のこと。アナグラムの一種と考えることもできる。最も簡単なものではlevelやeye・文ではMadam, I'm Adam.(奥様、わたしはアダムです)/Name no one man.(だれの名前もあげるな)など。ナポレオンが言ったとされる回文に、Able was I ere I saw Elba.(エルバ島を見るまでは私にも力があった)がある。日本語の回文は、かなを単位とするが、ヨーロッパ語ではアルファベットを単位とするため、日本語では、回文にならないものが、ローマ字で回文になることもある。「赤坂(AKASAKA)」「囲炉裏(IRORI)」「うさぎの子逃がす(USAGI NO KO NIGASU)」などがその例である。1985年度版のギネスブックによると、最も長い回文は6万5000語から成るという。
リポグラム(lipogram)
アルファベットの特定の1文字を含まない文章のこと。古くは、紀元前5世紀のギリシアの詩人トリュピオドロスが名高い。現代では、アーネスト・ライトによって書かれた5万語からなる小説、『ギャズビー』(1939)が有名。この作品は、英語で最もよく使われる文字であるeを全く用いていない。
ユニボカリック(univocalics)
アルファベットの母音をひとつしか用いない文章のこと。次にあげるのは、ボンバウが作った詩(1890)の対句である。No cool monsoons blow soft on Oxford dons, / Orthodox, jog-trot, bookworm Solomons!(オックスフォードの教師たちには、涼しいモンスーンは優しくは吹かない。月並みで、てくてく歩く、本の虫のソロモンたちよ―訳は『言語学百科事典』より)
パングラム(pangram)
アルファベットのすべての文字を含む文のこと。日本語でいえばいろは歌に当たるもので、すべての文字が一度しか現れないのが望ましいが、実際にはなかなか難しい。例えばThe quick brown fox jumps over the lazy dog.(そのすばしこい茶色の狐(きつね)は、なまけものの犬の上を飛び越える。『言語学百科事典』)はタイプの練習用に使われるといい、いろは歌が手習いに活用された状況と似ている。
ダブレット(doublet)
ある語の1文字だけを変えて別の語を作りながら、所定の語に最も早く到達するようにする遊びで、『不思議の国のアリス』の作者ルイス・キャロルが考案したもの。例えば「豚(pig)を豚小屋(sty)に入れよ」という問題では、PIG→wig→wag→way→say→STY、「猿(ape)を人(man)に進化させよ」では、APE→are→ere→err→ear→mar→MAN、「カインをアベルに変えよ」は、CAIN→chin→shin→spin→spun→spud→sped→aped→abed→ABEL、となる。変換に際しては、固有名詞を用いてはならないとか、動詞に-erをつけた名詞は不可とか、様々な規則がある。
クロノグラム(chronogram)
ローマ数字(C・D・I・L・M・V)を文字として使用することで、一連の語句の中に日付を隠すこと。多くの場合はメダルや墓石、鐘などに彫られ、出来事の日付を表した。数字を表す文字は通常大文字で書かれている。次にあげるのは、ウインチェスター大聖堂の丸天井に刻まれたクロノグラムである。sInt DoMVs hVI Vs pII reges nVtrItII, regInae nVtrI Ces plae(王たちがあなたのために彼らの養父となり、王妃たちは彼らの乳母となる―イザヤ書 49:23)。ここに現れた数字はMDCVVVVVIIIIIIIIII=1635となり、聖堂の屋根の完成年を表している。
アクロスティック(acrostic)
通常は詩に登場するもので、特定の箇所の文字をつなげると、一つの語句になるような遊びのことである。日本語では『伊勢物語』(10世紀)に登場する「かきつばた」の〈折句〉がこれにあたる。詩の各行の頭の文字をつなげるものをシングル・アクロスティック、初めと終わりの文字を集めるものをダブル・アクロスティック、初め・中央・終わりの文字を集めるものをトリプル・アクロスティック、終わりの文字だけつなげるものをテレスティックという。『言語学百科事典』には、トリプル・アクロスティックの例として次のようなものがあがっている。原文でそれぞれの単語はなぞなぞを通じて導き出されるものであるが、ここでは解答のみ列挙する。初め・中央・終わりの文字をそれぞれ並べると、色の名前がでてくる。
reiteration(反復)→Reite Ratio N
economize(節約する)→Econ Omiz E
bandage(包帯)→Ban Dag E
musketeer(マスケット銃兵)→Musk Etee R
adoring(敬愛する)→Ado Rin G
上の列はAMBER(琥珀(こ‐はく)色)・中央の列はRED(赤)とOR(金)、さらに下の列はGREEN(緑)となる。
判じ物(rebuse)
文字や絵、記号などを織り交ぜた語や文のことで、一定の方法で類似の発音の語や文を解読する。
〔1〕YY U R=Too wise you are.
(あなたは非常に賢明だ)
〔2〕H&=hand(手)
〔1〕はYの複数形(Ys)を発音が同じになるwiseに対応させるところがポイントである。また、〔2〕は、&をandに置きかえ、Hと結びつけることにより、handという単語が生まれる。
(『ことばの知識百科』三省堂刊より)
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